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次の金曜日、菜々美は学校に来なかった。
優馬の胸に、苦い想いが広がった。
「元村菜々美は体調不良で休みなので、日直は次の人が代わりにやってください」
松岡は朝のホームルームで事務的にそう言うと、特に変わった様子も見せず、職員室に帰って行った。
やはり昨日のことが原因なのだろうか。
だとしたらなぜ自分は、平然とここに座っていられるのだろう。
優馬は唇を噛んだ。
悩みを抱えていた菜々美を無理やり抱きしめ、触れた。守りたいという想いが一番卑怯で野蛮な衝動に変換されてしまった。
自分で自分を制御できなかった。
一晩中そのことに苦しんで、ほとんど眠れぬ夜を過ごしたが、それが菜々美への償いになるはずもない。
謝って済むことではないのは分かっていたが、どうにかして自分の気持ちを伝えたいと思い、昨夜短いメールを打った。
打っている途中、こんなことで伝えられるはずもないと思い直し消そうとしたのだが、うっかり誤って送信してしまい、そのことも情けなくて仕方なかった。
なぜ姑息にメールなど打ったのだろう。
自分はもしかしたら、菜々美に謝罪したいのではなく、許されたいだけなのかもしれない。どうにか取り繕って、元の友達に戻りたいだけなのかもしれない。
そう思うと、更に自分がちっぽけで、くだらないものに思えた。
「元気ないな」
放課後すでに人気のなくなった教室でぼんやりしていると、草太が声を掛けてきた。
「みんな、下にパトカーが来てるからって見に行ったけど、優馬は興味ない?」
「うん、別に」
例の放火犯がここの生徒かもしれないという噂はどんどん広まり、死んだ岸田にいじめられた生徒が犯人扱いされ、第2のいじめに遭うという問題まで起きていた。
警察が学校に来るのは、別の盗難事件のためだと教師から聞かされていたが、生徒は自分たちで勝手に妄想を膨らませ、誰しもが興奮気味だった。
校内は、鬱屈した日常のなにかを弾き飛ばしたい生徒たちの願望と熱であふれている。
優馬はなんとなく、そんな気がした。
自分たちは、人間として一番不安定で未熟な心と体を今、持て余している。
自分もきっとそうなのだ、と。
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