第21話 告白

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夕日は彩度を増し、二人のいる教室を鮮やかに染めていく。 優馬は草太と並ぶように自分の机に腰掛け、努めて冷静な声を出しながら言葉をつづけた。 「菜々美はやっぱり、あの絵を描いた人と付き合ってるみたいなんだ。そんなのおかしいって言ったら、自分を大切に思う人は他にはいないって言うんだ。そんなことあるはずないのに。 菜々美はいい奴だし、友達だっていっぱいいるし、それなのに、まだ中学生の菜々美を、あんな絵のモデルにするような大人を信用するなんて、馬鹿げてる。そう思うだろ?」 草太の視線を頬に感じたが、振り向く余裕もなく優馬はつづけた。 昨日の心の高ぶりが、またぶり返す様に心臓から湧き上がって全身に廻っていく。 「すごく悔しかったんだ。菜々美の事を大切に思ってる人間は他にもいっぱいいる。僕だって菜々美に何か辛いことがあるんなら、力になってあげたいと思ってる。そう伝えたかったんだ。伝えて、安心させてあげたかったんだ。だけど、昨日は何でだか上手く言葉に出来なくて……。 気が付いたら、無理やり抱きしめてた。無意識だったんだ。でも、なんだか訳分からなくなっちゃって。 菜々美は……やめてって言った。それから、さよならって。 悩んでる菜々美に、酷いことした。もっと傷つけたんだ。死にたいくらい情けなかった」 そんなつもりは無かったのに、不意に目が霞み、涙が零れ落ちた。慌てて拭う。 「自分でもなんであんなことしたのか分からない。でも夜、思ったんだ。自分は結局卑怯なんだって。汚い人間なんだって。月のうさぎの話なんて、菜々美によくできたもんだよなって、笑えた」 「菜々美が、そう言ったのか?」 草太の問いに、優馬は首を横に振った。 「菜々美はそんなこと言わない。僕を非難するようなことは何も言わなかった。でも、それが余計に情けなくって。 後で思ったんだ。僕は結局自分の都合のいいように生きてるんだって。いつもそうだったのかもしれない。ずっとそうだったのかもしれない。 もしかしたら、弟を本当に殺してしまったのは僕なのかもしれない。母さんが取られるのが嫌で、殺しちゃったのかもしれない。忘れたような錯覚をしてるのかもしれない。きっとそうだ、だから弟の事を思い出すと、こんなに苦しくて死にたくなるんだって。 昨日の晩から頭の中が、そればっかりで。どうしようもなくって……」
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