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草太は続けた。
「菜々美の絵を見た時、俺、正直言ってそんなに驚かなかった。ただ、見ちゃいけないものを見ちゃったんだって思っただけで。たぶん、優馬やほかの男子が感じる興奮とか、まるでなかった。
……予感はあったんだ。自分がどっかおかしい、人と感覚が違ってるって。でも、はっきりその時分かった。俺は、女を好きになったり、ハダカに興奮したり、エッチしたいと思ったりできない、欠陥品なんだって。それなのに」
草太はそこで優馬の目をクイと捉えた。
優馬は金縛りにあったように、その場に固まった。
「それなのに今は、すごく心臓がバクバク言ってるんだ。優馬の傍にいるからだよ。今だけじゃなくて、ずっとそうだった。小学校の時からずっとだよ」
ついさっきの優馬がそうだったように、もう草太の口からあふれ出した独白は止まりそうもない。
ただただその状況が恐ろしく、優馬はその場をすぐさま立ち去りたかったが、草太の言葉と視線には、それを許さない圧倒的な威圧感があった。
「優馬に菜々美の絵を見せたのは、菜々美を心配したからじゃない。逆なんだ。ほら、菜々美はこんな姿を他人に見せるんだ、女の子って、こうなんだって。
優馬に見せたかった。教えたかった。担任が相手なのかどうかは分からなかったけど、そうだったら優馬はきっと、もっと腹を立てるだろうって…そう思った」
「草太」
「卑怯で情けないっていうのは、俺みたいなやつを言うんだよ。優馬は違う。優馬はまっとうなんだ。卑怯だったり、間違ってたりしたことなんて今まで一度だってないよ。
俺、なんとなくわかる。きのう、菜々美はわざとそんな話をして優馬の気を引こうとしたんだ。好き勝手やってるくせに、弱いふりして。優馬の中にも自分の居場所を作りたかったんだ。同情してほしかったんだよ。女なんて、優馬が思ってるほど…」
「やめろよ! なんでそんな」
「優馬のことが、好きだったんだ、ずっと」
突如放たれたその言葉は優馬の心臓に異物として突き刺さった。
それが不快感に変わるのに時間はかからなかった。
優馬はごくりと息を呑む。 呼吸がうまくできなくて、さっきとは違う眩暈を感じた。
体中の皮膚が泡立つのは、嫌悪感に他ならなかった。
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