第23話 危うい奔流

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----17時48分。 例えようもないほど、情けない気分だった。 誰もいない自宅のリビングで草太は、何度も先ほど自分がやってしまった告白について考えた。 けれども考えても考えても、絶望の文字しか頭に湧いてこない。 もうこれからは、優馬と今までの様に気軽に付き合うこともできないだろう。 もしかしたら、近づくことすら拒否されるかもしれない。 衝動という魔物がすべてを壊してしまったのだということに、草太はじわじわと気づかされつつあった。 もう取り返しがつかない。すべて終わってしまったのだ。 不意にリビングの電話のベルが鳴った。 優馬からであるはずはないのに、ほんのかすかな期待を持ちながら出た電話からは、知らない男の声がした。 「大内電家ですが、関谷信夫さんは、そちらにおられます?」 と、少し横柄に訊いてくる。信夫の職場からだ。 少し前に信夫は携帯を失くしたと言っていた。家の方に掛かってきたのはそのせいだろう。 「まだ帰ってきてません」 「おかしいな。昼過ぎにまた体調がすぐれないって言って、帰っちゃったんだけど」 草太の中で信夫に対する不信感が、ジワリとまた湧き上がってきた。 もうすぐ6時だというのに、体調不良で早退した信夫は、帰ってきてなどいない。 病院だと思いますと、適当に返事をして電話を切ったが、胸の中のもやもやはどんどん膨れ上がっていく。 信夫の机の下の屑籠が目に入ったが、その中にはもう塵ひとつ入ってなかった。 たいしてゴミは溜まっていなかったのに、草太が落としたプチトマトごと、きれいに消えている。 そして何より奇妙なことに、机の上に転がしてあったあのプラスチックの欠片は、透明の5センチ四方のプラケースに入れられ、まるで宝物のように卓上に飾られていた。 整然と配置されたその異様さにゾッとしながら、草太はプラケースを手に取った。 ケースの中のそれは、やはりどう見ても何かの器具か、電化製品の破損した一部にしか見えない。 自分の持ち物ならばボンドか何かで修理するはずで、こんな風に保存する理由など思いつかない。 大切な人の何かだろうか。
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