第3話 事件と憶測と

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まばらになった生徒たちの中に、自分が受け持つ1年2組の女生徒の姿を見つけた。 元村菜々美(もとむらななみ)だ。 開襟シャツから胸元がちらりと見えた。この角度からではよく見えないが、スカートは今日も太ももを僅かにしか隠していないのだろう。 あとでじっくり注意しておかなければ、と思いながら、松宮は席に着いた。 「3年3組の岸田直紀の容体がよくありません。今朝がたから意識の混濁が続いているようです。岸田の自宅に放火した犯人はまだ分かっていませんが、それについて良くない情報が入ってきています。 放火された時間帯に、付近で挙動不審の中学生くらいの子供を見かけたという話があると、警察のほうから連絡がありました。学校内のトラブルがなかったかどうかの問い合わせです。 憶測の段階ですので、学校としては毅然とした態度をとる方針ですが、もし生徒に噂が漏れたとしても、生徒を動揺させないように配慮をお願いします」 ―――岸田直紀。 なかなかやんちゃ系の生徒で、生徒指導の教師を手こずらせていたことを誰もが知っているだけに、苦い情報だ。 岸田にいびられた生徒は、数え上げたらきりがないはずだ。恨みなら多分に買っているだろう。 もしあの放火が本校の生徒の仕業だとしたら、学校としても知らぬ顔など出来なくなる。 なるほど、教頭の顔つきが険しい訳だ。自分の生徒を信じるよりも先に、早くも対処法を伝達してくるとは恐れ入る。 松宮は冷めた溜め息を吐いた。 しかしながら松宮には今一つその話に信憑性が無いような気がしてならなかった。いくら中学生でも放火などという、そんな大それた報復をするだろうか。 あくびをかみ殺して、じっと自分の指先を見つめる。 あの柔らかい、まだ穢れのない幼い肌を描いた、背徳の紅い色がこびり付いている。 一刻も早く、この指先の汚れを落としたくて仕方なかった。         ***
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