第23話 危うい奔流

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「またそうやってギャンブルにはまっちゃったんだ。それで自由になる金が欲しくて街金で金を借りたんだろ。知らないと思ってる? 督促状だって見た。宝田3丁目の角谷ファイナンス。ちょっと前、火事で死んだ先輩の家の近くだから、住所が頭に入ってる。そこに行って確かめたら、ノブさんが何やってるか分かるよね。どうすんの、そのお金。母さんから巻き上げるつもり?」 信夫の表情がさらに蒼白になり、こちらを直視しているのが分かったが、草太は目を合わさなかった。 信夫が手に持っている半透明のレジ袋が、かさかさと音を立てている。 買ってきたものか、パチンコの景品なのか、草太が好きでいつも食べているスナック菓子とジュースが入っているのが見えた。 「母さんには借金の事なんて言ってないよ。間違いだったら嫌だし。でも、本当にそうなんなら、俺、黙っておくのは嫌だから。母さんをがっかりさせる前に、ちゃんと…」 「あの子か」 「……え?」 「優馬か」 信夫の口から唐突に吐き出された言葉は、不明瞭だったが、確かに草太にはそう聞こえた。 あまりの脈略の無さに、背筋が一瞬ゾワリと泡立つ。 「何がだよ。なんでここで優馬が出てくるんだよ。関係ないだろ? あんたの借金の話をしてんだよ!」 けれど信夫は口の中で何か小さく呟いただけで、あとは口を閉ざし、突き動かされるように自宅のある方向へ歩き出した。 「ノブさん」 声を掛けてみたが、やはり振り向きもしない。 車一つ通らぬ寂しい旧国道を右に折れ、その姿はすぐに見えなくなった。 言い過ぎただろうかという思いが、ようやくそのころ草太の中に湧いてきた。 自分のイライラを、信夫の問題にすり替えてぶつけてしまったのかもしれないと。 悪い人ではないのだ。一生懸命自分たちと家族になろうとしてくれている。 けれど、やはりどこか混ざり合えない何かがあるような気がして堪らなかった。 その何かが、わからない。
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