第23話 危うい奔流

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いずれにしても、あとは大人の問題なのだろう。答えを出すのは母親の京子なのだ。 草太は処理不可能な結論をとりあえず脇へ追いやり、ペダルに足を掛けた。 しかしながら、このまま真っ直ぐマンションに帰り、信夫と顔を合わせる気には到底なれない。 再び途方に暮れる。 携帯電話を家に忘れてきたのは痛手だったが、財布なら持ってきていた。 駅前のファーストフード店あたりで時間をつぶそうと考え、草太はモーテルを後にした。 風に乗ってまた、遠くから消防車のサイレンの音が聞こえてくる。 3年生の岸田を焼いた不審火の炎を一瞬想像してみた。 焼かれて死ぬのは、苦しいのだろうか。 走りながら見上げた夕暮れの空に、驚くほど鮮やかに輝く満月を見つけた草太はドクンと心臓を跳ね上がらせ、すぐに視線を戻した。 月に横たわるうさぎを見ると、やはりどうしても優馬の事を思い出して胸が疼く。 同時に押し寄せてきた耐え難い寂寥を振り払うように、草太は力いっぱいペダルを漕いだ。 今はもう、何も考えたくなかった。 -----時刻は18時22分。
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