第24話 さびしくて

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-----18時18分。 遠くで消防車のサイレンの音がする。 菜々美はベッドに寝ころがったまま、「火事多いな」とつぶやいてみた。 「日本の火災原因で、一番多いのは何だと思う?」 もう眠っていると思っていた忠彦の手が後ろから伸びてきて、菜々美の頭を撫でた。 「なんだろ。…タバコかな」 「放火だよ」 「そうなの?」 振り返った菜々美から手を離し、忠彦は「怖いよね」と笑った。 もう以前の様に、直接肌に触れてくることは無くなった。 「病気ってやつはいけないね。あっちもダメになっちゃった」と少し前、忠彦は冗談交じりに笑ったが、あれは本当のことだったのかもしれない。 ほっとするよりも菜々美は、自分が役立たずになったような不安を感じた。 忠彦は菜々美の前で苦痛を表に出すことは一切なかったが、強い薬のせいなのか、いつもどこかぼんやりしているように思えた。 一緒に居てもいつの間にか眠っていることが多く、そのこけた頬を見ていると、時々このまま目を覚まさないのではないかと不安で、気が変になりそうになる。 忠彦はきっとそれを敏感に察しているのだろう。 目を覚ました時に菜々美と目が合うと、「まだ、くたばったりしないよ」と笑って見せる。 菜々美もつられて笑うが、到底楽しい気分にはなれなかった。 「静子さんがりんごを沢山買ってきてくれてるんだ。好きなら食べていいよ」 気を使って言ってくれた忠彦の言葉も、菜々美を更に寂しい気持ちにさせた。 静子というのが、忠彦の亡くなった奥さんの姉だということは知っていた。 忠彦の身の回りのことは、その義姉である静子が時々来てやっているようだったが、菜々美は極力彼女とは顔を合わせないように見計らって、ここへ来ていた。 どういう関係かと聞かれて、自分が嘘をつけるか自信がなかった。 一度ちらりと見かけたが、冷たい感じの印象を受けた。 「ちょっとクールで無口な人なんだ。僕を嫌ってるのかもしれないね。妹を早死にさせたって思ってる。剛志がちょっと冷めた面があるのは、どこかにあの血が入ってるからかもしれないって、最近思うよ」 2週間くらい前に忠彦はそんなことを言った。 忠彦が自分の息子、つまり担任の松宮の話をするのはとても珍しかったので、菜々美はよく覚えている。
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