第24話 さびしくて

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「泣いてるの? 笑ってるの?」 忠彦が、菜々美を覗き込んで小さく言った。 「楽しいメール?」 「全然。《寂しい僕を今夜慰めてくれませんか?》っていう、迷惑メール」 「それはいけないな。僕のほうが先約だから」 「そう。私は先生専属なの」 菜々美は立ち上がり、閉め忘れていた窓に近寄って、硝子戸の淵に手をかけた。 夕映えのオレンジは、柔らかな夜の紫に浸食されようとしている。 目を上げれば、夜の青の中にまん丸い月。 今日は満月だったのだ。うさぎが静かに横たわっている。 菜々美は胸に小さく痛みを感じ、慌てて目を伏せた。 どこか甘く、切ない痛みだと感じた。           ***
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