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すぐさま携帯を取り出し、このことを知らせようと、草太のアドレスを開いた。
メールを打ち始めたところでやっと数時間前の草太との気まずいやり取りを思い出し、指が止まりかけたが、不思議とあの瞬間ほどの嫌悪感は無かった。
今の優馬にはそれよりも、夕闇と同じ色でじわじわ自分を染めていく不安と寂寥のほうが怖かった。
自分が何にこんなに怯えているのか考えたくもないのに、答えがザワザワと自分から耳打ちしてくる。
紀美子を失う事。紀美子に憎まれること。菜々美も誰も救えない自分に、自分自身が失望すること。
そして、……自分は不要だと思う事。
苦しくて寂しくて身の置き場がなくて。
手を伸ばした先にあったのは、やはり草太の存在だった。
何か不安なことがあった時、優馬が助けを求めるのはいつも草太だった。
草太はその度に快く優馬を受け止めてくれた。たとえ自分の時間や大切な用事を後回しにしても。
優馬が草太になにかしてやったことがあるだろうかと考えてみたが、思い浮かばなかった。
自分はいつも守られていた気がする。
それなのに、なぜ自分はさっきあんな態度を取ってしまったのだろう。
何か嫌なことをされたわけでもないのに。
ただ、草太は胸の内を話してくれただけなのに。
そのことで、今までの草太が邪なものに置き換えられるわけでもないのに。
動悸が激しくなった。あのあと草太は、どんな気持ちでいただろう。
後悔が一気に押し寄せ、込み上げてきたものでメールの画面が滲む。
草太に会いたかった。
会って、今まで通りに話がしたかった。
けれど電話を掛けることは出来ず、この連絡はメールにした。
今、草太の声を聞いてしまったら絶対に、泣き出してしまうに違いないから。
〈草太、今、どこ?〉
たったそれだけ、恐る恐る送ってみた。
返事はすぐに来た。
《ずっと家にいるよ。どうしたの? 優馬》
あまりにもほっとして体から力が抜けた。小さく息を吐き、優馬は携帯を宝物の様に握った。
大丈夫。今まで通りの仲でいられる。そう思うだけで安堵に包まれ、優馬の中にあった病的なほどの不安が一気に和らいだ。
今この瞬間の自分が冷静さを欠いている事に気づくこともなく、優馬は一気に文字を打って行った。
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