第24話 さびしくて

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〈ねえ草太、あのモーテルが壊されるの知ってる? 業者の人、下見にきたりするよね、きっと。屋内とか〉 《あのモーテルが解体されるの?》 今度も返信は、すぐに来た。 〈うん。菜々美の絵はまだあの中にあるんだよね。あの絵を知らない大人に見られるのは絶対いやなんだ。松宮は処分するつもりであの絵をここに放り込んだのかもしれないけど〉 けれど次の草太からの返信には、なぜかずいぶんと間があった。 数時間前の草太の、「菜々美のことなんてどうでもいいんだ」という言葉が優馬の脳裏に蘇り、苦いものが込み上げてきた。 草太は菜々美の事を嫌っているのだろうか。だとしたら、真剣に考えてくれないのではないか、と。 けれど少しして返ってきた文面は、拍子抜けするほどあっさりしていた。 《ああ、菜々美の絵ね。きっとあそこにあると思うよ。見つかったら嫌だよね》 要領を得ない返信だったが、先ほどの気まずさも草太のほうに残っているのだろうと感じた。 もしかしたらこのことは、草太に相談すべきことではなかったかもしれない。 少しばかり残念には感じたが、それでも草太と普通に文章を交わせたことが優馬を勇気づけた。 〈ごめん。いいよ。絵があるかどうかは自分で確認に行く。もしもあったら、破いてしまってもいいよね。あんな絵、描くほうが悪いんだから〉 ただ「うん」と言ってほしくて送信した。 情けないと思ったが、草太の同意が無ければ、破壊行為に踏み切れなかったのだ。 けれどその返信は、YESでもNOでもなかった。 《蒼月だよね。中に入って待っててくれる? 俺も行くから。誰にも見つからないように注意するんだよ》 蒼月? 優馬は周りを見渡した。 一瞬ピンと来なかったが、確かに入口の看板には蒼月と書いてある。これが正式な名なのだ。 草太はいつもそう呼んでいただろうか。そしてなぜ改めて名前を確認したのだろう。
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