第24話 さびしくて

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些細な疑問がよぎったが、それもほんの一瞬で、すぐさまそれよりも大きな安堵が優馬を包んだ。 まさか草太がここに来てくれるなどとは思ってもいなかったのだ。 優馬よりも、あんな告白をした後の草太のほうが、きっと自分に顔を合わせ辛いに違いないのに。 正直、うれしかった。草太に会いたかった。 会って学校でのことを謝って、そしてまた今までの幼馴染に戻るのだ。 優馬はそっと自転車を押しながら、注意深くあたりの様子をうかがった。 不法侵入を咎められないように少しばかり準備が必要だった。 自転車をそっと奥の植え込みに隠し、通りから見えないようにした。 裏に広いバイパスが通ったために、この道の車の往来はとても少なくなったが、散歩やジョギングの人とは時たますれ違う。 これから侵入する裏口は道路からは死角だが、自転車をキッチリ隠し、音など立てないようにしなければ。 裏口に回ってみると、ドアには草太と初めて入ったあの日と同じように錆びたチェーンが張られていただけで、施錠はされていなかった。 草太があの日、「もう二度と入ることは無いから」と言ってきつく巻いたチェーンは、なかなか外れずに手こずったが、幸い、街灯もない裏口での作業を照らしてくれる明かりが天空にあった。 今夜は眩いほどの満月だ。 極力音を立てずに慎重にチェーンを外していく。 きつく巻きすぎだよ、と後で草太に文句を言ってやろうと思いながら、優馬は絡み合った鎖に悪戦苦闘した。 あの日草太の手から匂ったのと同じ、血に似た錆びの匂いが、ツンと鼻を突いた。 -------時刻は19時28分
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