142人が本棚に入れています
本棚に追加
駅前のファーストフード店は今夜はなぜかやけに混んでいた。
一人分くらいの席は空いていたが、馬鹿騒ぎしている他校の女子中学生の中に入っていく気にもなれず、草太はすぐに店を出た。
駐輪場に行くと、自分の横に停めてあった自転車が優馬のものとそっくりだったことにドキリとした。
もちろん優馬の自転車ではなかったのだが、ひとつ、草太の気をひきつけたものが其処にあった。
自転車のライトだ。
その自転車の半球形のライトは、確かに優馬のものと同じだ。
数日前に、どこかにぶつけて破損してしまったという優馬のライト。
改めてじっと、目の前の自転車の楕円のライトを見つめる。
そのプラスチックの形状と、記憶の中にある別の何かが、草太の中でカタンと嵌った。
信夫の机の上にあった何かの欠片。
あれは優馬の自転車の欠損部分によく似ている。
たぶんそうに違いない、そう思うと同時に、どうにも滑稽で、とてつもなく恐ろしい感覚に捕らわれた。
本当にあれが優馬の自転車のライトの欠片だとして、それを信夫が保存しておく理由とは何だろう。
まるで大切な何かの様に、ケースにまで入れて。
優馬と信夫がどこかで偶然出会ったということなのだろうか。
行動範囲も違いそうだし、そもそも信夫も優馬も、そんなことは何も言っていなかった。
どこかでばったり出会った事を、忘れてしまったのだろうか……。
脳裏をかすめたものが、草太の胸に突き刺さった。
――――忘れてしまったのだろうか。
最初のコメントを投稿しよう!