第25話 欠損

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草太は早まる鼓動を鎮めながら、記憶をたどってみた。 一昨日。 そうだ一昨日、二人はマンションで会っている。 優馬は何も反応しなかったが、信夫は確か、こう言った。 “表にとめてあった青い自転車。あれ、優馬君のだったのかな” と。 まるで、改めて確認をし、優馬の反応を伺うように。 あの時すでに優馬の自転車のライトは欠けていた。 あの欠片に草太が気づいたのは昨夜だが、もしかしたらその時すでに、あの欠片は信夫の机の上に転がっていたのかもしれない。 信夫はあの欠片を、どこで手に入れたのだろう。 ライトが欠けた場所で二人は接触し、優馬は5年前と同じ様に記憶を失くしてしまったと考えたらどうだろう。 ……いや、そんな偶発的に記憶はなくなるものだろうか。 そして何よりあのおしゃべりな信夫が、そのことについて何も言わないのは不自然ではないだろうか。 ここ数日の信夫への不信感が、自分の中にあり得ないほど嫌な想像を広げているのだと、思いたかった。 けれど、信夫が母にさえ言えない良からぬ隠し事をしているのは、借金のことだけ取っても明白だった。 もしかしたら、もっと大きな、想像のつかない秘密があるのではないか。 自転車を走らせながら、ポケットに手を伸ばす。 けれどその手は空をかすり、携帯を家に忘れて来たことを思い出して草太は舌打ちをした。 鼓動が早くなる。 「……優馬」 無意識にその言葉がこぼれた。 宝田3丁目。岸田の家の放火。街金。ライトの欠片。信夫。優馬。 それこそすべてが、欠片だらけだ。 ひとつの線で結ばれることもなく、それなのに、不安だけがどんどん膨らんでいく。 ……優馬。お前 いったい何を忘れてしまったんだ。 ---------時刻は20時12分
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