第26話 咆哮

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「もう来なくていいですから。私が先生のお世話をします。これからずっと。だからもう、おばさんなんて、二度とここに来ないで!」 しっかりと手にペーパーナイフを握り締め、切っ先を静子に向けて菜々美は叫んだ。 青ざめて引きつった表情のまま、静子はじりじりと後ずさり、そしてもう一言も声を発することなく部屋を出て行った。 菜々美は手に持ったペーパーナイフを半開きのままのドアに投げつけ、声を上げながら忠彦のベッドにもぐりこんだ。 それは叫び声のような嗚咽だった。 涙が噴き出すようにあとからあとから流れ出てくる。 泣くという行為をほとんどしてこなかった菜々美の一生分の涙がここで放出されようとしているかのように、それは止まることを知らなかった。 汚くなんかない。 先生も私も、ちゃんと生きてここにいる。 汚くなんか、ない。 「菜々美? ……どうしたんだ、菜々美」 忠彦がようやく目を覚ました。 菜々美はベッドの中で、忠彦の痩せた体に、必死にしがみついた。        ***
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