第26話 咆哮

6/7
前へ
/185ページ
次へ
探していた携帯電話は、置いたはずのないリビングの隅のチェストの上にあった。 今日はそのチェストに近づいてもないのに。 床に落としてしまっていたのを、信夫が拾ってそこに乗せたのだろうか。 手に取ると、メール受信のランプが点滅していた。 慌ててモニターを見て、心臓がトンと跳ねた。 優馬からだ。 数時間前のやり取りを思い出し、安堵と不安の二つの大きな波に呑まれながら草太はタイトルのないメール本文を開いてみた。 一瞬、文面の意味が分からず、再度目を凝らして眺める。 《草太 ありがとう。今やっとモーテルの中に入れたよ。中は真っ暗だからすごく不気味。これから3階まで上がるよ。結局草太まで呼び出すことになってごめん。部屋で待ってる。気をつけてね》 いったい何の事だ? それ以外の着信メールを探したが、何もない。 送信欄にも、新しい記述は残されていない。 電話の着信も発信も確認したが、やはりなにも新しい履歴など無い。 けれど、何もないのにいきなりこんな文面が優馬から送られてくるはずはなかった。 消去されてしまったのだ。 優馬と会う約束をした文面が。 この携帯を触ることができた、唯一の人物によって。 鼓動が早くなるのをなだめながらすぐさま優馬に電話を掛けた。けれど繋がらない。 メール受信から10分も経っていないのに電源が切られている。 草太は喉から訳の分からない声を出して叫び、怒りに打ち震えながら部屋を見渡した。 もう信夫がこの部屋にいないのは一目瞭然だったが、この事態がいったい何を意味しているのか、その答えを求めた。 そして再び目にした「異変」に凍り付く。 あの欠片を入れてあったプラケースが、信夫の机の真ん中に置いてある。
/185ページ

最初のコメントを投稿しよう!

142人が本棚に入れています
本棚に追加