第26話 咆哮

7/7
前へ
/185ページ
次へ
走り寄って確かめたが、やはり中身の欠片はなくなっていた。 あれが優馬の自転車のライトカバーの欠片だというは、もう草太の中でゆるぎないものになっていた。 優馬と信夫は、どこかの路上でばったり会っているのだ。 そして優馬はそれを忘れてしまっている。あの5年前の様に。 なぜ。 そしてなぜ今、信夫は「出会った事の証」を持ち、騙してまで優馬を誘い出したのか。 『あの子か……、優馬か』 洞のような目をして、優馬の名を呼び捨てにした数時間前の信夫が脳裏によみがえり、背筋がゾッとした。 ―――自分は何の引き金を引いてしまったのか。 草太は獣のような声をあげると、携帯をひっつかみ、転がるように部屋を飛び出した。
/185ページ

最初のコメントを投稿しよう!

142人が本棚に入れています
本棚に追加