第27話 暗闇の中で

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〈お願いだから、自分を大事にしてほしい〉 メールを送信したところでちょうど携帯の電池が切れてしまい、部屋は一瞬暗闇に包まれた。 外に設置された街灯のほんのわずかな明かりが、優馬の視界のすべてとなった。 けれど今は不思議と、少しも怖いとは思わなかった。 もうすぐここに草太が来るからかもしれない。 数時間前の、自分の失礼な態度をちゃんと謝ろう。あの時の自分はどうかしていたのだと。 失うかもしれないと思った大切なものは、きっとまたこの手の中に戻る。 そう思うと、柔らかな安堵に満たされた。 自分がいつも、「失う事」に怯えていたのだということを、痛いほど感じた。 突如、窓の外で大きな鳥の羽音が響いた。 あまりに驚いて携帯を取り落す。 窓の方を見たがもう何もいない。きっとカラスか何かが気まぐれに飛び立ったのだろう。 まだドキドキする心臓をなだめながら携帯を拾い上げ、ポケットに滑り込ませたその時だった。 部屋のドアが突き破らんばかりに勢いよく開けられた。 草太?  ほぼそう確信してドアを振り返った優馬だったが、次の瞬間、凍り付いた。 暗闇の中に微かに浮かび上がった輪郭は、明らかに別人のものだ。 声を出して、誰? と問う間も無かった。 頭部に鋭い衝撃を受け、そのまま床に叩き付けられた。 恐怖を感じる間も与えられず、次の瞬間には横っ腹を思いきり蹴りつけられ、息ができなくなった。 窓の外からのほんのわずかな明かりが、自分を見下ろす男の顔を浮かび上がらせたが、優馬には幻にしか思えなかった。その人がここにいる理由が分からない。 まるで決められた予定を淡々とこなす作業員の様に、男は2度3度、無抵抗に転がる優馬の腹を蹴り上げる。 ―――信夫さん、どうして……。 もはや、それを問うことも、優馬には叶わなかった。       ***
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