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忠彦の手を強く握りながら菜々美は声を絞り出して言った。
日に日に、生命の灯が衰えていくように感じられる、この目の前の男が愛おしく、そして死が無理やり自分から男を奪っていく現実に、堪らない怒りを感じた。
今この口から吐き出される言葉はすべて本心だった。
そしてそれが、忠彦を当惑させるわがままだということも充分わかっていた。
けれどもう、止められない。言う端から体が火照っていく。
今やっと、菜々美には自分の”役目”が、見えてきたのだ。なぜ自分がここにいるのか。
なぜ忠彦の傍にいるのか。
ようやく進むべき方向が見えてきた。それゆえの火照りだった。
--- 愛してる。---
ベッドに座ったまま、頬を濡らしていた涙をグイと拭った。もう泣くのはこれで終わりだという決意と共に。
不意に菜々美の膝の横で、メールの着信音が鳴った。
携帯画面に表示されたのは優馬の名だった。
菜々美は吸い寄せられるように開き、そこに映し出された一行の文字を、言葉もなく見つめた。
ほんの一瞬、呼吸ができなくなった。
込み上げて来る熱いものを必死でこらえる。
「友達から?」
穏やかな声で忠彦が問いかけてきた。
菜々美は一つゆっくり呼吸をしたあと、できるだけ平静を装い、首を横に振って答えた。
「ううん。ただの迷惑メールよ」
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