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「優馬? 知らない。何言ってんだよ草太……それどころじゃないんだ、上の階で……」
「知らないはずないだろ!! ここであんたが優馬騙して待ち合わせしてるのは知ってんだよ。あんたメール全部消して安心してたんだろうけど、そのあと優馬からメール来てんだよ! しらばっくれんなよ! あんた、優馬に何か秘密握られて焦ってたんだろ?」
吐き捨てるように言い、信夫の横をすり抜けて階上へ走り上がろうとした草太のジャケットの裾を信夫が掴んだ。
空洞のような二つの目が草太を見つめている。
「何の事を言ってるんだ。草太は何か、勘違いしてるんだよ。とにかく逃げよう。火が出たんだ。放火だよ。またどっかの悪ガキが放火したんだよ。
子供が入り込んだのが見えたから注意しようと追いかけたら、3階から火が出てたんだ」
―――火。
体中が総毛だった。
草太は全力で信夫を振り切ろうとしたが、その手がジャケットをがっしりとつかんで離れない。
咄嗟にジャケットから腕を抜いて脱ぎ、そのまま階段を駆け上がりながら草太は叫んだ。
「優馬に何かあったらお前なんかぶっ殺してやる!」
もう1秒だって無駄にできない。全力で走り、あの部屋に向かった。
間に合ってくれ! ただそれだけを祈りながら。
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