第29話 闇と焔(ほむら)と

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暗い廊下に出ると、安堵で一気に体が弛緩しかけたが、思った以上に廊下には煙が充満している。 急がなければ。  草太はふたたび気持ちを奮い立たせて階段の方へ足を速めた。 揺れるたびに小さく呻く優馬に、草太の心臓が軋む。 頬に触れる優馬の髪から、濃厚な血の匂いがした。 「優馬、大丈夫だから。ここを下りればもう……」 けれどそのあとの言葉は続かなかった。 さっきまで炎の気配など無かった階段下から、炎の揺らぎが見えたのだ。 覗き込むと、炎は階段を伝って2階のフロアのカーペットに燃え移り、更に触手を上に延ばそうとしている。 逃げ道を絶たれたのだ。 「くそっ! あいつ……!」 絶望が体を貫いた。 なぜ思い至らなかったのだろう。優馬を助けに行った自分を、信夫が見逃すはずがないではないか。 それとも、信夫が自分に手を出すことなどありえないと、心のどこかで過信していたのだろうか。 ここ数日、自分が信夫に投げつけたいくつもの暴言。 もしも自分があの男の狂気に火をつけてしまったのだとしたら……。 足元から崩れ落ちそうになるのを、手すりをつかんで必死にこらえた。 「草太……」 背中で消え入りそうな声を出した優馬が、そのあと小さく咳き込んだ。 煙が濃くなっている。 「大丈夫、平気。心配いらないから。まだ…………。そうだ、あの部屋がある!」 あの部屋には鍵がかかっていない!! ボンと階下で何かが熱で爆ぜた。 それを合図に草太は優馬を背負ったまま、廊下の反対側の端に向かって走った。 もう一つの、鍵のかかっていない部屋。あそこへ行こう。 閉じ込められていた小鳥を空へ逃がしてやった、 あの部屋へ。
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