第30話 解き放つために

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階下で再び何かが割れる音がした。 ドアの上下の隙間からは、明らかにさっきよりも濃い煙がじわじわと入り込んでいて、もう防ぎようもない。 額から汗が流れた。 室温がわずかに上昇しているのだと気づくと、それだけで気が変になりそうだった。 悔しさと絶望で叫びそうになるのを堪え、草太は窓枠に手を掛けたままギュッと目を閉じた。 その時。不意に何かを思いついたかのように、優馬が小さく声を漏らした。 振り向くと、普段と同じ穏やかな表情で草太を見上げている。 「草太、飛べる?」 その声は場違いなほど軽やかで、草太の崩壊寸前の心をふっと掬い上げた。 「え?」 「そこから、飛べる?」と、もう一度問いかけてくる優馬の目は月の光を映し、まるで希望に満ちた人間のそれのように輝いていた。 冗談を言っているとは、なぜか思えなかった。 ドアの外で再びガラスの割れる音が響き、地の底から湧き出るような振動が床から伝わってくる。 もう時間がないのは紛れもない事実だった。 草太はもう一度窓を振り返る。 逃げ道があるとすれば、やはりここ以外には考えられない。 窓の下にはつつじのような枯れた低木が、範囲は狭いが地面を覆っている。 飛べるだろうか。この3階の窓から。 無意識に握りしめた拳が汗ばんで震える。 けれど思い悩んでいる時間も、他の選択肢も残されていなかった。
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