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「どう。行けそう?」
まるで体育の出欠の確認でもするような調子で、優馬は訊いてきた。
その表情は穏やかだったが、月の光の中で酷く蒼白く見えた。
「この下はツツジの茂みが少しあるし、そこに落ちれば俺は何とかなると思う。でも優馬は大丈夫なのか? どっか骨でも折れてたら、飛び降りたとき…」
「草太が受け止めてよ」
何でもないことの様に優馬は言った。本当に事態を飲み込めてるんだろうかと、わずかに不安になる。
それとも、体のダメージはそんなにひどくないのだろうか。
「ボールじゃないんだから、そんなに簡単にはいかないよ」
ボンッ、とどこかでまた何かが爆ぜる音がする。先ほどから足に伝わる微かな振動は、今は気のせいではないと確信できる。
暗くてよく見えないが、この部屋に入り込む煙の量も増えてきている。
もうきっと2階の廊下には火が回っているのだろう。
さっきから何度も窓の外に目をやるが、車のライトがよぎることはなかった。
たとえ通る車があったとして、この建物全体を包むほどの炎が上がるまで、運転手に気づかれることは無いのかもしれない。
躊躇っている時間も他の選択肢も、もうないのだ。
草太は思考を集中させた。
自分が先に飛び降り、意識さえあれば這ってでも車道に出て車を止める。
いやそんな、いつ来るかもしれない車を待つよりも優馬をここから出す方が先か。もう煙の勢いが止まらない。
煙はとにかく上に立ちのぼっていく。岸田は炎ではなく、煙にやられたのだ。
確か、裏口から入ってすぐの収納スペースに、予備のマットレスや毛布の類が押し込んであった。
あれを下に敷き詰めよう。何とかなるかもしれない。
いや、絶対になんとかする!
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