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遠くから、泣きながら優馬を呼んでいる草太の声が聞こえる。
何をあんなに悲しそうな声を出しているのかと可笑しくなって、優馬は窓を見上げた。
もう首を動かすのもやっとなのだなと、他人事のように確認する。
空には丸い月が、温かな光をたたえて浮かび、優馬を見下ろしている。
心優しい月のうさぎは今夜もその姿を光の中に横たえていた。
やはり美しすぎて神々しすぎて、とても優馬の手には届かない。
――――ねぇうさぎ。僕がいなくなれば 母さんは自由になれるのかな。
くるりとうさぎが月の上で飛び跳ねた
YESなのだろうか。 NOなのだろうか。
答えを聞くことも叶わず、優馬はゆっくりと瞼を閉じた。
***
『この手紙は、10年後の君に届いているだろうか。
ほんのイタズラ心なのだが、10年後の君に届けられる予定のこの封筒に、わたしも手紙を忍ばせてみたよ。どうか怒らないでおくれね。
さて、23歳の君は、どんな大人になっているのだろうね。
もう立ち直って、仕事などしているのだろうか。だったら嬉しいのだけど。
君が中学1年生の秋に起きたあの事故は、本当に気の毒なものだった。
あの優馬という少年は、君にとって誰よりも大切な友人だったのだろうね。
あんなことになってしまって、わたしは何もできなかった自分を恨んだよ。
大切な友を失って君はあの時、本当に一生分泣いたのだろうけど。
君の悲しみは、今はもう癒えているだろうか。しっかり前を向いてくれているだろうか。
そしてわたしは、ちゃんと君を守れているだろうか。君もまた、わたしを頼りにしてくれているだろうか。
切に切に、そう願うよ。いつまでも過去の亡霊になど、捕らわれてはいけない。
君は自分の人生を幸せに生きなければならないのだから。
10年後の君の幸せを祈るよ。
君を心から、愛している。
――――― 信夫 』
松宮は職員室の自分のデスクでその手紙を読み、思わず声をあげそうになった。
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