第1話 悪夢と共に

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『この手紙は、10年後の君に届いているだろうか。 ほんのイタズラ心なのだが、10年後の君に届けられる予定のこの封筒に、わたしも手紙を忍ばせてみたよ。どうか怒らないでおくれね。 さて、23歳の君は、どんな大人になっているのだろうね。 もう立ち直って、仕事などしているのだろうか。だったら嬉しいのだけど。 君が中学1年生の秋に起きたあの事故は、本当に気の毒なものだった。 あの優馬という少年は、君にとって誰よりも大切な友人だったのだろうね。 あんなことになってしまって、わたしは何もできなかった自分を恨んだよ。 大切な友を失い、君はあの時、本当に一生分泣いたのだろうけど……。 君の悲しみは、今はもう癒えているだろうか。しっかり前を向いてくれているだろうか。 そしてわたしは、ちゃんと君を守れているだろうか。君もまた、わたしを頼りにしてくれているだろうか。 切に切に、そう願うよ。いつまでも過去の亡霊になど、捕らわれてはいけない。 君は自分の人生を幸せに生きなければならないのだから。 10年後の君の幸せを祈るよ。 ---- 君を心から 愛している。』 淡い水色の便箋に書かれたその手紙を読み終えた青年の指先が、震えた。 じっとりと嫌な汗がにじんでくる。 『愛』という文字が、今まで気づかなかった狂気を孕んでいるようで、几帳面なその文字を直視ことができなかった。 優馬……。 青年はすっかり暮れてしまった窓の外を眺めながら、しばし呆然とした。            ***
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