第5話 侵入と誓約の先に

4/5
前へ
/185ページ
次へ
「見た後、後悔しないか?」 「なんで? 見て後悔する絵って、どんな絵だよ」 あまりにも意外な言葉におかしくなって、優馬は笑った。 「ここまで連れてきて、それは無いよ。見せたかったから呼んだんだろ?」 「見たあと、俺を恨まない?」 さらに不可解な草太の言葉だった。 そんなことあるわけないのに、草太の表情は言葉通りとても不安そうに見えた。 「うん。絶対に恨んだりしないから、見せてよ」 優馬が真面目な顔で言ってやると草太は小さく頷き、一番奥にあったむき出しのキャンバスを慎重に引き抜いて、優馬のほうにゆっくりと向けた。 瞬間、頭が真っ白になった。 息をするのも忘れて目の前のものを直視し、理解できたとたん心臓がドクンとはねた。 草太の腰くらいまであるそのキャンバスに描かれていたのは、菜々美だった。 菜々美によく似た少女、と言うには、あまりにも無理があるほど、それは菜々美そのものだった。 ここではない、どこか別の部屋の、やわらかそうなソファに浅く座り、真正面からこちらをまっすぐに見つめている。 朝方のような白い光を浴びているそのまだ幼い体は、何も纏っていなかった。 両腕を自然な形で横に垂らし、眩しそうにこちらを見つめている瞳は、あくびをした後のように潤んでいる。 何か言いたげにわずかに開いた唇は、つややかな桜色。 その首筋をたどった先には、ほんのわずかに膨らんだ白い胸があった。 乳房と呼ぶにはあまりにも幼い、蒼白いふくらみ。 稜線の産毛が光り、かろうじて中心を印す淡いピンクの突起が、まるで心音と共に震えているようにさえ見える。 腰や腹は女性らしい曲線は描いていなかったが、痩せぎすなため僅かにあばらの形が感じられ、逆にその青い影が生々しく目の奥に刻まれる。 何の緊張もなくソファに腰掛けた尻と、それを分かつ白い太ももの間には、まだ産毛しか生えていない秘所が僅かに覗き、柔らかな、そして体温を感じる艶めかしい質感で描かれていた。 心臓に鉛を流し込まれたような重い緊張と同時に、体中の血がザワザワと泡立つような感覚に捕らわれた。
/185ページ

最初のコメントを投稿しよう!

142人が本棚に入れています
本棚に追加