第6話 怒りと安堵

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「これ、誰だか分かるよな」 それはゾッとするような冷ややかな草太の声だった。 優馬は動揺を隠し、必死に平静を装いながら草太と目を合わせた。 だがその単純な問いに、頷く事がどうしてもできない。 「首のところに、二つ並んだほくろがあるだろ。この2、3日ずっと菜々美の首んとこ見てたんだ。同じ場所にちゃんとあった。そんな細かい部分までしっかり菜々美なんだ。でも今の菜々美じゃないよな。胸とかぺったんこだし。小6とか?」 冷静に語る草太が、逆にひどく奇妙に思えた。もう見つけてから3日経っているからだろうか。 自分は直視することすら苦しいというのに。 優馬はいぶかるような目を草太に向けた。 「なんでこんなところに、こんな絵があるんだよ」 「そんなこと俺にだってわからないよ。絵を描いた誰かがここを倉庫代わりに使ってるんじゃない?」 「誰が!」 「ここのホテルの持ち主とか」 「それって誰だよ!」 「知らないよ。でかい声出すなよ優馬。外に響くだろ」 草太の冷静な声で優馬は我に返った。心臓がバクバクしている。 怒りなのか興奮なのかわからない動悸だった。 見てはいけないと思うのに、白い光を放っている柔らかなその肌に、ふたたび視線が吸い寄せられてしまう。 想像すらしたことのない、女の子の下肢の露わな姿がそこにあった。 それも、ずっと一緒に遊び、今ひそかに気になっている菜々美のものだ。 1時間ほど前まで教室で見ていたその少女の横顔を思い出した途端、股間が鈍く疼いた。 焦りで体中が発汗する。 「優馬。なんでこんな絵があると思う?」 「……それ僕がさっき訊いたことだろ? 僕に分かるわけないじゃないか」 「そうじゃなくて。なんでこんな絵が描かれたんだと思う? 菜々美が無理やりモデルにされたんだと思う?」 「そうに決まってる」 「そうかなぁ。俺はたぶん菜々美が了解したんだと思う。自分から服を脱いで描いてもらったんだ。こんな絵を描かせるほど親密な人間に」 「そんなことあるはずないよ。それに…モデルなんか無くたって絵は描ける。そうだよ、誰かが勝手に想像して描いたのかもしれないし。コラージュ写真みたいに、顔だけ似せて……」 「菜々美だよ。これ全部、菜々美だ」
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