第6話 怒りと安堵

4/4
前へ
/185ページ
次へ
優馬はこのところずっと思っていた言葉を、思い切って草太に投げかけてみた。 今、こんな状況で訊くことではないかもしれないが、どうしても知っておきたかった。 「ねえ草太。草太も、菜々美の事が好きなんだろ?」 錆びたチェーンで手を赤く汚した草太が、驚いたように目を見開いて優馬を振り返った。 しばらくそのまま思案するようにこちらを見たまま動かない。 それが答えだと感じた。 「草太。僕怒ってなんかないから。でもここで見たことは二人だけの秘密にしておこう。誰にも言っちゃだめだ。絶対に」 もちろん、ライバルなんて感覚は少しも湧いてこなかった。 それよりも心強く思えた。同じ痛みを、草太も抱えることになるのだ。 今までよりも、草太がもっと身近に思えた。 草太がゆっくり優馬のすぐ横に来て並び、家のある方向に歩き出す。 夕焼けが炎のように赤く空を染めて、眩しかった。 「ああ、手も真っ赤。これ、落ちないんだよな」 さっきまでの気まずさを打ち消そうとするかのように草太がじゃれ付き、チェーンのさびで汚れた手のひらを見せてきた。 胸の痛みも動揺も拭いきれるはずなど無かったが、優馬も、いつものように笑ってみた。 草太の、赤く染まった手が触れる。 不安になるような、濃厚な血の匂いがした。
/185ページ

最初のコメントを投稿しよう!

142人が本棚に入れています
本棚に追加