第9話 知らない少女

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どこかでボタンを掛け違えたような、かみ合わない違和感があった。 そんなに時は流れていないのに、小学校のころの3人の関係にはもう戻れないのだと言う寂しさが、ジワリと胸に来た。 変わってしまったのは菜々美なのだろうか。草太なのだろうか。 ずっと同じ時間を過ごして来たと思っていた友人が、とても遠くに感じられ、優馬はどうしようもない寂しさに捕らわれた。            *** 「それでは、専用の便箋と封筒を配るので、みんなこれに10年後の自分への手紙を書いてきてください。 三日以内に提出すること。授業の一環ではなく、この中学校の恒例イベントのようなものなので、気軽に書いてください。内容は教師がチェックすることはないです。封筒に自分の住所と名前を書いて、封印してくださいね。 学校で責任もって10年後のみんなに届けます」 その日の午後のホームルームで、担任の松宮は淡いブルーの便箋と封筒を生徒に配った。 「卒業後に住所が変わった場合は、申し訳ないが中学校まで連絡してくれるとありがたい」 ”そこまでして、この手紙を受け取りたくはないよ。” 教室にはそんな無言のつぶやきがあふれているように、優馬には感じられた。 皆、10年後の自分どころか、今の自分で手いっぱいなのだ。 優馬は菜々美の背中と、草太の背中をちらりと見た後、自分の前に置かれた5枚の便箋と1枚の封筒に視線を落とした。 この手紙を10年後の自分が受け取るのだという実感がなぜか湧いてこない。 そんな先の自分を、まるで想像できない。 もしかしたらもうその水色の紙の上には、何かバッドエンドの物語が書かれているのではないだろうか。 訳も無くそんな気がして、悲しくなった。
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