第12話 微震

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昨日、何となく気まずい別れ方をしたせいもあり、優馬はこの日、草太とも菜々美とも、ほとんど会話を交わすこと無く午前中授業を終えた。 そんな雰囲気が伝わったのだろうか。 草太の方も少し優馬と距離を取っているように、視線さえ向けてこなかった。 何が原因かも分からないぎこちなさがあったが、それは別の意味で学校全体にも言えることだった。 岸田直樹の死から2日過ぎたが、イレギュラーな時間編成が組まれたために、落ち着かない雰囲気は相変わらず学校中に満ちていた。 「みんな席について。少し早いがホームルームを始めます」 相変わらず、いつものペースを保ったまま教室に入って来た松宮を、優馬はじっと見つめた。 この日はもともと午後の授業は無かったが、更に短縮授業になり、下校時間が繰り上げられた。 午後からは予定どおり希望者の家庭訪問が行われるのだが、それは今や「ついで」の行事であり、学校側が慎重にすすめていたのは、火事で死んでしまった岸田直樹の告別式の段取りだった。 岸田直樹のクラスメートと3年の教諭陣は夕刻、告別式に参列する。 松宮はいつものように淡々と、それらの伝達事項を生徒に伝えた。 「生徒もやっぱり葬式に行くんだな。嫌われ者だったけど」 ホームルームの最中だったが、後ろのほうでそんなヒソヒソ話が聞こえてくる。 けれども優馬が気になるのは、岸田の告別式よりも、「ついで」に行われる自分の家の家庭訪問だった。
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