第12話 微震

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1学期の家庭訪問の時、紀美子は言った。 「入学したての家庭訪問なんて、こっちが覗きに来られてるだけよね。担任の松宮先生、まだ優馬の事なんにも知らないでしょうに。こっちには何の情報も入らないのよ。意味ないと思わない?」 では、今日の家庭訪問で紀美子は担任から何を聞き出したいと思っているのだろう。 勘ぐってしまう自分が嫌で仕方なかったが、一度そんな風に考えてしまうと、なかなか止められない。 月のうさぎの無垢に憧れるのだと、昨日2人に言ってしまった自分が滑稽に思えてならなかった。 草太が笑い飛ばしてくれた事が、今は有難く思える。 「人間に生まれてきたらもう、清いまま生きていくことなど出来ないのよ」、と言った菜々美の言葉は正論なのだ。 自分の子供じみた理想が、紙くずに思えた。 「なあ優馬、浜田んちでゲームしないか? 自分の部屋にゲーム専用のモニターあるんだってさ。さすが金持ちは違うよな」 隣の席の森田が声をかけてきてくれたが、優馬は用事があるんだとやんわり断った。午後2時。松宮が家に来るのだ。 もちろん、優馬が立ち会うべき行事でも何でも無かった。逆に、家に居たらきっと自分は落ち着かない。 そう思うのに、森田の誘いを迷い無く断った自分の不可解さに、優馬はまたひとつ憂鬱になった。
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