第13話 終わらない夜の始まり

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「たった3か月しか一緒にいられなかったし、もうちょっと一緒に居たいと思ったんですが、そのちょっとがもう5年です。ダメですね。未だにわがままを通しています」 「優馬君は、そのお子さんが亡くなられた場所に居たとお聞きしましたが、その時8歳ですよね」 「そんなこともご存じなんですね。そう、優馬は3年生でした。どうしてあの時自分は傍に居なかったんだろうって、今でも悔やんでます。たぶん一生悔やむんでしょうね」 「優馬君を、信じておられますか?」 一瞬、優馬は呼吸ができなくなった。 この教師はいったい、何を言い出すのだ。 もう帰ってくださいと、追い返してよ お母さん。 心の中で叫び声を上げた。その先など、聞きたくなかった。けれどこの場から動くことも出来ない。 体が固められたように、指先ひとつ動かせなかった。 「どうしてそんなことを?」 「すみません。余計なことをお訊きしました」 「確かにね……。まだ寝返りもできなかった直がうつぶせで亡くなってしまったことは、不思議でなりませんでした」 けれども紀美子は穏やかな声でつづけた。 「でも、私は優馬を信じています。優馬は私の事が大好きで、私も優馬の事が大好きです。信じてますよ」 そこで、紀美子がひとつ呼吸したのが優馬にも感じられた。 そして紀美子の言葉は、続く。 「……っていうか、信じるほか、ないじゃないですか」 頭と舌が痺れていくように感じた。 そして次第に体中が冷えていく。 「信じたいと、思われてるんですね」 「優馬が大好きなんです。可愛い子だと思ってる。でも、ほんのわずかでも8歳のあの日の優馬を疑ってしまったら、その気持ちがどうなってしまうか分からないんです。自分でもね。だから何が何でも信じようと思ってるんです。これからもずっと」 「優馬君のあの日の記憶を取り戻す治療など試してみられましたか?」 「そんなこと、意味がないですよ」 「なぜ?」
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