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自転車を二人乗りして草太の家に向かう途中も、草太があのモーテルを見上げていた理由は訊かなかった。
答えは優馬にはなんとなく分かっていた。
優馬と同じように、きっと草太もあの絵にずっと心を乱されているのだろう。
菜々美のことが好きだから、どうしていいのか分からなくなっているのに違いない、と。
最近の学校での少し不可解な言動もきっと、そのせいだと思えばすべて納得がいった。
草太には申し訳なかったが、逆に草太の苦悩が心強かった。
菜々美の秘密という、同じ痛みを共有できるのだ。
そしてそれが親友の草太だということが、優馬には今、不思議なほど嬉しかった。
その安堵は次第に憔悴した心を呑み込み、同じ秘密を共有する幼馴染への信頼をさらに強めて行った。
大切な、かけがえのない友人。
そのゆるぎない思いがその時すでに、大きな過ちの引き金になっていた事に優馬自身、まだ欠片ほども気づいてはいなかった。
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