第15話 温かな場所

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「関谷さん、これ品番間違って届いてる」 パートの中沢が、袋に入ったままのACアダプターを怒ったようにブンブンと振る。 信夫は頭が真っ白になるのを感じた。 確認すると、確かに今朝メーカーから届いたのは、自分が客から注文されて取り寄せたはずの商品ではなかった。 とにかく急いでほしいということだったので、品番の確認もせずにその男性客に「入りました」と朝一で連絡をしたのだ。 この小さな電気店に努めて半年になるが、頭に入れなければならない新規作業が多く、なかなか馴染むのに時間がかかった。 それまでは京子の店を手伝っていたのだが、やはりいつまでも甘えているわけにはいかなかった。 自分が生活の柱にならなければ、籍など入れられるはずもない。 この電気店に口利きをしてくれた京子の恩に報いるためにも、自分はこの職場で頑張っていくのだと、信夫は心に決めていた。 どちらの籍に入ってもいい。あの二人と家族になりたかった。 寺山京子は、今は恨みしか持っていない、元共同経営者の男に連れて行ってもらったバーのママだった。 自分より5つ年上だったせいか姉のような口調で話しかけられ、家族の温かさを知らずに育った信夫はその心地よさに酔いしれ、弟のように甘えた。 いつしか、”両親に早くに死に別れ親戚の家を転々としながら定時制の学校を出て頑張ってきたのだ”などという、しみったれた身の上を話して聞かせていた。 「子供には、どんな親でも居るだけマシなのかな。うちにも小5の息子がいるんだけどね」 何度も通い、安い酒ばかり飲みながらそんな話をするうちに、京子も身の上を語ってくれるようになった。 聞けば京子もずっと片親で、その親も数年前に亡くしたばかりだという。
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