第15話 温かな場所

4/6
前へ
/185ページ
次へ
優馬は、久しぶりに訪ねた草太のマンションの部屋を見渡した。 半年くらい前に来た時よりも、きれいに片付いている気がした。 「母さんもノブさんも仕事だから、気にせず上がれよ。ラーメンでもつくるからさ」 「え、お昼はもう……」 「お腹、鳴ってたし」 悪戯っぽく草太が笑うと、もう何かを隠すのが馬鹿らしくなって、優馬も笑った。 きっと草太は、優馬がやってしまったことすべてを知っているのだと、そんな根拠のない感覚が体に満ちてくる。 大好きな紀美子の傍にいる時とはまた違う安寧が、草太の傍にはあった。 小さなころから、ずっと変わらない緩やかな安心感だ。 「今もずっとノブさんって呼んでるの?」 キッチンでゴソゴソと手鍋を探していた草太の横に来て、優馬は訊いた。 自分も何か手伝おうと、手を洗う。 「だってまだあの二人結婚してる訳じゃないし。まあ、そうなったとしてもお父さんって呼びにくいけどね」 「いつかは結婚するのかな」 「だろうね。あんまりそんな話はしてくれないし、俺も興味ないから訊かないし。でも今のままじゃノブさん、ヒモっぽくて嫌なんじゃない? 自分が二人を養うんだってノブさん言ってたし。母さんは笑ってたけど」 「信夫さんの優しさなのかな」 「プライドなのかもね。あの人なりに、ちゃんと家族になろうって頑張ってるみたいだし」 草太は手慣れた様子で鍋に分量の水を入れ火にかけた。ガスレンジの炎がボッと一瞬周囲を照らす。 表情を変えずに穏やかに家族の事を語る草太を、優馬はほんの少し眩しげに見つめた。 ある日突然入り込んできた男性と母との交際を認め、少し引いたところで見守っている草太がとても大人に見えた。 そして同時に思った。自分には絶対にできないと。 信夫とはもう3、4回くらい会っていた。 小学校の運動会、小・中学校の自由参観。学校行事にはよく姿を見かけたので、優馬も挨拶をした。 そのたびに「草太と仲良くしてくれてありがとう」と、優しげに挨拶を返してくれる。 この人が草太のお父さんになる人なんだな。優しい人だったらいいな。 そんな風に思ったが、なかなか実感は伴わなかった。
/185ページ

最初のコメントを投稿しよう!

142人が本棚に入れています
本棚に追加