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「お湯沸いた~! ラーメン投入!」
草太が小さな子供のようにふざけながら、インスタント麺を手鍋の中に2つ放り込む。
熱湯の飛沫が飛び跳ね、二人ともワーキャー叫びながら笑いあった。
優馬の中に淀んでいた憂鬱が、束の間薄らいだ。
まるで小学生の頃にもどったようにキッチンで騒ぎ立てていたため、玄関のドアが開いたことに二人とも気づかなかった。
あれ? という声を漏らして、草太が玄関のほうを見る。
リビングに入ってきたのは、仕事に行っていたはずの信夫だった。
「やぁ。……お客さんだった?」
信夫が笑顔で言う。久々に見た信夫は、やや顔色が悪いように優馬には思えた。
「こんにちは。お邪魔しています」
「ノブさん、今日はすごく早いね。どうしたの?」
どんぶり鉢に麺をよそいながら草太が訊く。あたりにはスープのいい匂いが漂っていた。
「うん、昼頃からちょっと頭痛がひどくなってね。帰らせてもらった。ええと、君は……」
信夫の視線が優馬の上でぴたりと止まった。
「木戸です。木戸優馬です」
「ああ、そうだったね、優馬君だった」
やはりどこかしんどそうな信夫の視線は、それでも優馬をじっとみつめた。
視線は優馬の上で止まったまましばらく動かなかったが、やがて記憶にある柔らかい笑顔に戻った。
「僕はちょっと奥の部屋で休むけど、気にせずにゆっくり遊んでいってね」
「あ、はい。すみません」
「大丈夫? ノブさん」
「うん、平気平気。さっき薬飲んだし。頭痛持ちはつらいよ」
そう言って奥の寝室に入ろうとした信夫が、つと足を止めて、再び優馬を振り返った。
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