第16話 追及のあと

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「なんでだよ。 生徒と先生だから? 一番あり得るよ。いつも一緒に居るんだから」 「でも……」 「さっき5日前のことを出したとき、松宮の目が慌てたの、見てない? あいつなんだよ。きっともう菜々美と寝てる」 「やめろよ! 汚らしい!」 「汚いと思う?」 「だって、あたりまえだろ」 「菜々美を、汚らしいって思う?」 「……」 優馬の中でヒートアップした怒りが、その言葉で何かにすり替えられた。 2人の話がまるで噛み合っていない。気持ちの落ち着かない違和感があった。 「……菜々美の相手に決まってるだろ。先生が相手だなんて思っては無いけど。第一あれは、ただ純粋に絵のモデルになっただけかもしれないじゃないか。なんで草太はすぐにそんな方向に想像しちゃうんだよ」 「本当はそんなこと思ってないくせに。どこの世界の芸術家が、小・中学生の女の子を真っ裸にして、あんなエロい絵を描くんだよ」 「でも、菜々美は……そんなこと…」 「ちょっと、あんたたち。声がでかいんですけど!」 その声に一瞬、冷水を浴びたように全身が凍り付いた。 廊下の端から、菜々美が憮然としてこちらを見ている。 なにか悪い夢を見ているようで、優馬はめまいがした。 けれど草太は、少し眉をしかめただけで足早に優馬と菜々美の脇を通り過ぎ、何事もなかったように教室の方に帰って行ってしまった。 菜々美のほうを、ちらりとも見ずに。 菜々美が腕組みをし、優馬をじっと見据える。 「ねえ優馬。今日も一緒に帰ろう。いいよね?」 全身の硬直が、まだ解けない。体中から嫌な汗が噴き出す。 「いいよね? 優馬」 優馬はただ一つ、小さく頷くしかなかった。
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