第17話 性

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「聞きたかったんでしょ? あの絵はね、私の一番好きな人に描いてもらったの。私から描いてってお願いして。すべて見てほしかったから、自分から脱いだの。先生は最初すごく困ってたけど」 「笑って言うことじゃないと思うけど」 静かに言ったつもりだったのに、語尾が震えた。込み上げて来るのは、怒りに近いものだった。 「なんで優馬が怒るの」 「先生なの?」 「え?」 「相手」 「そう、『先生』って呼んでるひと。とても大切な人」 「松宮?」 菜々美は肯定も否定もせずにクスッと笑った。 「そんなのおかしいよ。狂ってるよ。まだ中一じゃないか」 「じゃあ18になればいいの? 20歳? 12や13じゃあ、歳の離れた大人を好きになっちゃいけないの? その理屈わかんない。やっと安心できる場所を見つけたのよ。私を理解してくれる人を見つけたのよ」 「菜々美の居場所は、そんな奴の所じゃなくてもいいじゃないか。理解なら僕だってしてあげられる。両親だってちゃんと居るし、友達だって居るし。菜々美には皆ついててくれるじゃないか。そんな、小学生の裸見て喜ぶような大人になんて……」 「両親がそろってるから、何? 自分は揃ってないから、可哀想なの?」 胸に針を刺されたような痛みが走った。 菜々美の声が、憎しみを孕んでいたように感じられたのがショックだった。 自分は菜々美を攻撃しようなど思ってもいないし、されたいとも思っていない。 ただ、菜々美の事が気にかかって、心配で、助けてあげたいと思うだけなのに、と。 菜々美にとっては、自分もまた敵なのだろうか。
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