第17話 性

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「そんなこと言ってるんじゃないよ。僕はただ……」 「両親が揃ってて幸せなんだろうって言うなら教えてあげるよ。 父親は元々どこか精神が破たんしてて、娘を可愛いと思ったこともなく、別の女を追っかけてる。私がひとりで留守番していた時に、知らない女を連れてきたこともある。 母親は生活力ゼロだし、仕事もしたことのない女だから、追い出されるのが怖くて口答えもできない代わりに、妹を溺愛して気を紛らわしてるのよ。 家計は全部妹の服や習い事に消えてる。お金が無くなるとどこかのローンに手を出して、請求書がいつもポストにいっぱいよ。ここ半年、母親が作ったご飯が食卓に並んだこと、一回もないよ。 でもそんなこと、もういいの。もう家族なんて好き勝手にやればいい。期待なんかもしてないし、愛されようとか思ってないし。 でもね、自分の居場所がほしかったの。息ができる場所がほしかった。学校の友達も、みんなそれぞれの場所で愛されて幸せに生きてるんだって、最近そんなことばっかり思っちゃう。いじけて、ひねくれて、自分がどんどん惨めな生き物に思えて、堪らなくなって、生きてることも無意味に思えて」 やっとそこで菜々美は大きく息を吸い、瞬きをした。 その目が赤かった。 「でも、出会えたのよ。私をちゃんと一人の人間として見てくれて、本当に大切に思ってくれる人に。その人の傍にいると、幸せだって感じる。ずっと一緒に居たいと思える。 13歳でそんなこと言ったら可笑しいって思われるかもしれないけど、普通でありたいとも思わないもん。私は誰でもない、私なんだし。 優馬なら、この気持ち分かってくれると思ってた。優馬だって、ずっと優馬にしか分からない悩みを抱えて生きてるって思ってたから。 ……でも、優馬もほかの人と一緒なのね。同じこと言うのよね。私の事、汚らしいって思うんだ」 「違う、僕は……」 非難したいんじゃない。純粋に菜々美の力になってあげたいだけなのだ。 けれど気持ちをうまく伝える言葉が見つからない。何を言っても誤解を生みそうで怖かった。 日が暮れかけて、菜々美の姿が少しずつ、闇に沈んでいく。
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