第17話 性

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「ねえ、私の絵を見て、何か思った?」 血の気が引いた。いったい菜々美が何を思ってそう訊くのか、優馬にはまるで分からなかった。 なんらかの攻撃がまだ続いているのかと思うと、悲しくて仕方なかった。 けれどそれとまったく並行して、脳はまるで混乱を誘おうとでもするように、あの絵の菜々美の、光に溶けそうな柔らかな肌を脳裏に浮かび上がらせる。 目の前の少女の、その制服の下に隠れているものと、同じものだ。 「なんとも思わなかったの? 優馬」 「……」 「なんだ、がっかり。やっぱり、脱いでも魅力ないのね」 「菜々美、もう」 「昨日ね、外泊したのよ。初めて」 菜々美はかまわず、しゃべり続けた。しゃべっていないと何か、均衡が崩れてしまうとでも言いたそうな、不自然なしゃべり方だ。 「でも朝帰りしたって母親は何も咎めなかった。玄関口で、あら、帰ってなかったの? って言われた時、死んじゃえ、って思った。 そのあと、何だかおかしくなって笑ったのよ。ああ、自分はまだ少しは、心配されてるかもしれないって期待してたんだなって。ばっかみたい」 まるで泣いているように見える笑いが、どうしようもなく苦しかった。 「もう、そんな家族を試すようなことをしないほうがいい。余計辛くなる」 「そんなんじゃないのよ。試すとかそんなんじゃなくて……。分かってないのね、優馬。やっぱり伝わらなかったかあ……。そうよね、優馬にはちゃんと帰る場所があるんだもん」 さらに夕闇が濃くなった。 苦しくて、息をしようと上を向いたが、空気がうまく入ってこない気がした。 今夜は雲が厚くて月が見えない。 優馬の中に込み上げてくる、どうしようもない病的な熱を、押さえる方法が見つからない。 心臓が嫌な速さで鼓動する。
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