第2話 ゆれる朝

4/4
前へ
/185ページ
次へ
「スカート短すぎ」 歩きながら草太が言った。菜々美はもう視界から見えなくなっていた。 「え?」 「菜々美だよ。なんかこの頃色気づいたと思わない? 全然似合わないっつーの。チビでぺちゃのくせに。優馬、あいつと最近何か話した?」 「ううん……。最近はあんまり」 「だよな。あいつ、女子連中ともあまりつるんでないし、何かあったのかな」 「さあ。よくわからない」 意識して落ち着いた声を出しながらも、優馬は胸の中のざわつきが収まらなかった。 草太が言わんとしている事とは別に、菜々美の名が出るだけで、落ち着かなくなる。 確かにここ数か月は特に、菜々美はどこか今までと違って見えた。 女子同士ではしゃがなくなったし、今まで仲の良かった男子とも話さなくなった。 表情もぼんやりしていて、どこか別の場所を見ているような、心もとなさがあった。 変化していったのは他にもあった。 ほんの少し膨らんだ胸も、しなやかに伸びた手足も、首筋も。 草太はチビでぺちゃのくせに、と言っていたが、逆にその幼い外見からのわずかな変化が優馬を奇妙な気持ちにさせる。 背が高くて肉付きのいい女の子はクラスにたくさんいたが、そんな子らには、何も感じない。 今まで何も異性を感じさせなかった小柄な菜々美の変化が、優馬の気持ちをザワつかせるのだ。 じっと見つめること自体が悪いことのように思え、なるべくいつも目を逸らすようにした。 菜々美もあえて優馬に話しかけては来なくなったし、距離は適当に保たれていた。 『思春期だから』。きっと大人はそう言って笑う。 優馬もただ、自分が今どうしようもなく面倒くさい、そんな時間の中にいるのだろうと冷静に分析していた。 早足で歩きながら、ちらりと草太の表情を伺ってみる。 そんな話は互いにしたことはなかったが、草太も同じような波の中にいるのだろうか。 自分と同じように菜々美の事が気になり、そのしぐさから目を逸らしてしまうことがあるのだろうか。 校門の近くまで来たとき、5分前の予鈴が鳴った。 「やば! 走るぞ、優馬」 いつものように笑いながら、ぐいっと草太が優馬の手首をつかんで引っ張る。 「遅刻、平気なんだろ?」 負けないくらいに笑いながら優馬は声を張り上げた。 大声を出して笑っていないと何か黒い渦に飲み込まれてしまいそうな、訳もなく心もとない朝だった。
/185ページ

最初のコメントを投稿しよう!

142人が本棚に入れています
本棚に追加