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錆びの浮いた冷たいドアを開け、自宅マンションの玄関を入った草太は、そのままリビングのソファに体を投げ出した。
優馬とはなんとなく朝の件があってから顔を合わせづらく、今日はあれから口もきいていなかった。
菜々美のほうは、どういうわけか、向こうからいつも通り草太にも声をかけてくれて、帰り際にも「またね」と笑ってくれた。
朝の「絵」の話を聞いていたはずなのに。
女というものは、自分のハダカの絵を見られても、平気なものなんだろうか。
菜々美とは幼稚園の頃からの幼馴染だったが、歳を追うごとにどんな人間なのか、草太には理解することが難しくなった。
菜々美だけでなく、女子はほとんどそうだ。
だから草太にとって、別段それは問題ではなかった。
周りの女子たちがどんなに女らしくなっても、周りの男子が女子の品定めを始めても、そんなことはどうでもよかった。
問題だったのはむしろ、その”どうでもいい”という無機質な感情なのだ。
鳥を逃がそうと入り込んだモーテルの部屋で、菜々美の裸の絵を見つけたとき、驚きはしたが、それ以上の感情は湧いてこなかった。
代わりに思ったのは、優馬のことだ。
この絵の存在を知ったら、優馬はどう思うだろうと。
菜々美のことが好きだと打ち明けられたことはなかったが、そんなことは肌で感じる。
ずっと一緒に居たのだから。
優馬の視線は、いつもどこか、菜々美を追っているように見えた。
中学になり、自分のクラスの名簿に菜々美の名前を見つけた時の優馬の表情が、いつまでも記憶のなかに張り付いて残っている。
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