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兄弟や父親がいれば、あるいは遠まわしにでも相談できたのかもしれない。
けれど草太には、そのどちらもいない。
この年頃の男子にしては、草太は割と何でも母親に話をする方だったが、性に関することはやはり母親には悟られたくなかった。
必死で育てている息子がこんな出来損ないだと知ったら、どれほど母親はがっかりするだろう。
今までのような軽い会話もできなくなるかもしれない。
母親を落胆させるのももちろん嫌だし、気持ち悪がられるのも、不憫だと同情されるのも、きっと耐えられない。
打ち明けたら最後、とても大切なものを幾つも失うような気がした。
それはもちろん、優馬に対しても同じだ。
絶対に悟られてはいけない。
大丈夫。 自分はちゃんと演じられる。 何とかやっていける。
いや、もしかしたらこの感情は思春期の病か、心の誤作動なのかもしれない。
そうだ。 そう思っていれば、きっといつかこの苦しさから解放される。
自分に暗示をかけるように、草太はいつでも心の中でつぶやく。
けれどそうするごとに、心の中の熱は押し込められた蓋の下で苦しそうに身悶える。
疲弊した感情が、このごろ優馬に対する奇妙な行動に表れてしまう。
菜々美の絵を見せてしまったのもそうだ。卑怯でみっともないことだと分かっているのに、自制が効かない。
押さえようとするたびに、自分がおかしくなっていくのがわかる。
どこへも行き場がなかった。
ガチャリと玄関のドアが開く音がした。
廊下の先を覗くと、やはり信夫だ。時計を見ると5時半。
帰宅にはまだ早い気がした。
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