第20話 未熟な心と体

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夕食の後片付けは草太の担当だった。 信夫はやらなくてもいいというのだが、これは母親との約束だ。 二人だけの食卓は洗い物も少なく、信夫が申し訳なさそうにしている間にいつも終わってしまう。 ちょうど片づけを終えたころ、電話が鳴った。 ソファでテレビを見ていた信夫が子機を取る。 「はい。……いえ、すみません、ちょっと待ってください」 信夫は少しばかり声を低くし、ぼそぼそとしゃべりながら寝室に消えて行った。 時々こんな電話がある。 謝っている風なので仕事関係かな、と草太は思ったが、大人でも聞かれたくない内容の電話はあるだろうし、特に詮索はしなかった。 部屋を何気なく見渡すと、リビングの隅の信夫専用の机の下に先ほど転がしたプチトマトを見つけ、草太は腰をかがめて拾い上げた。 この2LDKの古い賃貸マンションに、当然信夫個人の部屋は無い。リビングダイニング以外の部屋は、草太の勉強部屋と大人二人の寝室だけだ。 信夫個人の物は、このリビングの隅のライティングデスク周辺に固められている。 ノートパソコンやわずかな書類、本くらいしか持ち物は無く、いつもきれい整頓された机の上だったが、よく見ると隅のほうに何か見慣れない欠片が置いてあった。 小さなペン用のトレーに、コロンと転がっている。 どこかで見たことのあるような、エンボス加工した透明のプラスティックの欠片だ。なにかの部品が欠けてしまったのだろう。 どう見てもゴミにしか見えないその2センチ四方の欠片を摘み上げ、草太は眺めた。 その形状が記憶の隅にあるような気がしたのだが、うまく引き出すことができない。 家の中の家電だろうか。 もどかしい気持ちのまま視線をおろすと、長い筒状の屑籠の中に、細かく千切られている書類のようなものがあるのが目に入った。 この捨て方は、おおざっぱな母ではない気がした。信夫だろうか。 いったい何をこんな躍起になって千切ったのだろうと少しばかり気になり、大きめの破片をひとつかみ、取り出してみた。 封筒のあて名はやはり信夫。重要という赤い印字がされている。
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