第1章

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 調子に乗って口から出た台詞。  私は内心彼女のことをそう呼んでいた。  中にはこの手の話題を良しとしない相手に宛てた配慮のつもりだったのだが……。 「あはは! なにそれやばーい! てかあいつにピッタリじゃん!」 「そのネーミングセンス最高すぎるでしょ~ウケる~」  どうやらそれは杞憂のようだった。  少なくとも、今ここにいる人達にそのような良心なんてものは持ち合わせちゃいなかった。  この日から彼女は“ゲツメン”と呼ばれるようになったのだ。  最初こそは彼女のいないところで囁かれたあだ名だったのだが、その呼び名はよそのクラスだけでなく、他学年にまで知れ渡り、もう秘密裏でとか言ってられなくなった。  学校全体が彼女の容姿にクスクスと悪意のとれる笑いを浮かべて、軽い苛めのような空気さえ流れつつあった。  あんなにも笑いが絶えなかった彼女の姿はどこにもなく、いつの日か前髪で顔全体を覆い隠し、下を向いての生活が主流となる。  それが卒業までずっと続いた。  でも罪悪感なんて沸かない。  それもこれも彼女の顔が汚いのがいけないのだ。  もっと清潔に、それこそ肌への気遣いの1つでも垣間見せてくれるのなら私だってもう少し優しさを見せたと思う。  私ばかりが経済的に負担をかけて苦労しているなんて不公平じゃない?  思って、私が本心から笑えなくなったのっていつからだろう……なんてことを頭の隅で考えた。  
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