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湯気の立った珈琲を一口啜る。
吐く息は白く、指は悴んで上手く動かない。暖かいコップに両手を添え、身体を小さく丸めながら静かに広大な街を見下ろしていた。
雪が積もり、白銀に染まった街並み。月の光がぼんやりとそれを照らし、未だ降り止まぬ粉雪と相まって幻想的で美しい。……作り物とは思えない出来だ。
防寒用の厚手の服を着ていても、寒さで肌に突き刺さるような痛みが走る。夜中だという事もあり、白く染まった街に外を出歩く人影は見当たらない。
「ハァ……寒いな……」
街の治安を守る為の見張り番、と言えば聴こえはいいが、実際のところ街の人に安心感を与えるために念のため。そんな理由で俺はこの凍てつくような寒さの中、一晩外に突っ立たされる貧乏くじを引いてしまった訳である。
やる事も無く、ただただぼうっと宙を舞う雪を目で追いかけた。寒い寒いと小言を呟き、珈琲の温もりで冷えきった身体に喝を入れる。
折角、街で一番高い建物である時計塔の上にいるというのに、景色をぼんやりと眺めるだけだ。見張り番としての仕事などあって無いようなものである。
そして俺がどれだけ気を抜いていようが、ここで転寝していようが、それを咎められる事は無い。そもそもこの街中で、問題など起こるはずも無いからだ。
その理由を、簡潔に説明するならば。
――此処が『ゲームの中の世界』で、街中でプレイヤーの不利益になる物事など『システム上』、基本的に起こり得ないからである。
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