理想郷ゲーム

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――ここ数年で車のオートドライブ機能は当然の事となり、宇宙旅行や細胞の複製化などの、近未来と呼ばれていた物はほぼ全てと言っていい程実現が可能になっていた。 目紛しい発展を見せた人類の科学技術は未だ留まる事を知らず、特に日本は世界の機械、電子機器産業の中核を担っているとまで言われている。 その日本生まれ、日本育ちの高校三年生である俺――『桜井 優斗』には、残念ながら生まれ故郷の産業事情などにてんで興味は無かった。 それでも日本に産まれて良かった思う事は勿論ある。その一つが、世界の中でも群を抜いた『ゲーム機』の性能だ。 数年前までのやれ高解像度だの、やれ3Dに見えるだのと言っていた時代は既に見る影もない。 『VRゲーム機』と呼ばれるコントローラーやディスプレイなどを必要としない、人の意識を電子世界へと飛ばす事でまるでゲームの中へと自分自身が入っているかの様な、擬似仮想世界が実現されていた。 高校三年生、社会人を手前にして唯一の趣味がゲームである残念人間なこの俺も、そのVRゲームにどっぷりと飲みり込み、バイトで稼いだ金の殆どを新作ソフトへと注ぎ込む生粋のゲーマーであった。 VRゲーム機が開発されて二年程経ち、未だ世界中のゲーマー達が興奮の渦中にいる中、とあるソフトが発表される。 そのタイトルは、『Utopia Game』。 後にプレイヤーの間では理想郷ゲームと呼ばれる様になる、正真正銘の問題作であった。
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