理想郷ゲーム

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重たく鈍い鐘の音が、ごうんごうんと足元から伝わってくる。静寂の街に、鐘の音だけが反響していた。こんな夜中に打ち鳴らされるのは、正直勘弁して欲しい。 「ただいま。帰ってきたよ」 「……おう。遅かったな」 後ろから不意に声をかけられ、一拍遅れて言葉を返した。いつの間にここまで登ってきたのだろうか。気を抜きすぎて、人が近付いている事にも気が付かなかった。 人の目を引く明るい茶髪。まるでファションモデルの様なすらりとした体型に、甘いルックス。耳に複数付けられたピアスも相まって、やんちゃな印象の青年だ。 しかし、背中に掛けられた身の丈ほどもある槍が、彼が普通の人間である事を否定していた。 桑原 涼。俺がこの世界に来る前からの友人で、理想郷ゲームのプレイヤーの一人である。 「全員無事だったか?」 「うん、なんとか。……死んだら、おしまいだしね」 「……まぁ、そうだな。ゲームオーバーが現実の死に繋がるなんて、今考えても馬鹿げた話だ」 理想郷ゲーム。この仮想世界にログインしたプレイヤーは、約三万。ゲームが開始されてから四ヶ月近く経つが、誰一人としてログアウトをしていない。 ――否、ログアウトできないのだ。この世界から抜け出す方法は、ゲームオーバーになる以外に判明していない。 「……本当に、さ。僕達、現実世界に帰れるのかな」 「さぁな。でも、やるしかねぇだろ」 「そうなんだけどさ。……このゲームをクリアしても意味が無かったらどうしようって、毎日考えちゃうんだよね」 「……涼にしては、珍しく弱気だな。らしくねぇ」 死のリスクもある。この世界から開放される確証もない。それでも、何もせずにこの世界で生きてゆくなんて、プレイヤー達には考えられなかった。 「……まぁね。今日まで色々あった訳だし」 だが事実、今まで犠牲になったプレイヤーも少なく無い。毎日の様に魔物と戦い、その度に命をかける。目の前で死にゆく仲間の姿も、何度も見てきた。 ……いくら前向きな人間でも、気が滅入るというものだ。むしろ、この世界でまともな精神を保つなど、無理な話なのかもしれない。
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