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「……まぁ、あれだ。あんまり思い詰めるなよ」
「ふふっ。優斗が気を遣うなんて、珍しいね」
不安げな顔から一転、涼は小さく笑みを見せた。話をしている間に、粉雪が頭に積もって二人の髪を濡らしていく。涼の様な顔がいい人間では、それさえカッコよく見えるのだから不思議なものだ。
「馬鹿言え、俺は元々めちゃくちゃ気が利く人間だよ」
「あははっ、自分で言っちゃダメだよ」
今度は、満面の笑顔。涼の笑い声が静寂の街に響いた。空に浮かんだ三日月が雲に隠れていく。月の光がゆっくりと失われ、視界も悪くなっていった。それでも、涼の表情が最後に憂いを含んだのを、俺は見逃さない。
「……凄いね、優斗は。いつでも自分を見失わない」
「……いや、そうでもねぇよ。俺だって、毎日不安で仕方が無い」
この鳥籠の様な世界に囚われ、不安感が無い者などいない。俺だってそうだ。どんなに鋼の心を持った人間だって、この世界にいる事に恐怖を感じているはず。
この街――『ロストタウン』がいくら敵の入ってこない安全圏だといっても、街の中から一歩も出なかったとしても。皆等しく、毎日に死の恐怖が付き纏うのだから。
「……そろそろ、帰ろうぜ。何時までもこんな所に居たら、寒くて風邪をひきそうだ」
わざとらしく両手を合わせて擦り、深く息を吐いた。白い息がふわりと口から出て、すっかり暗くなった空に消えていく。
「……ふふっ」
俺の言葉に、またもや涼が笑みを浮かべた。今回は何が彼の笑いのツボに入ったのかわからない。
「……なんだよ?」
「ううん、なんでもない。そういえば、蓮華ちゃんは? 一緒に見張り番じゃなかったっけ」
「あぁ、アイツか。途中から眠たそうだったから、帰らせた」
頭に浮かんだのは、先輩先輩と言いながら俺の後ろに付いて来る、うるさい――もとい、可愛い後輩。今回も意気揚々とこの時計塔まで付いて来たのはいいが、ものの数分で眠りこけてしまった。
「そっか。……でも、大丈夫なの? 一人にさせて」
「まぁ、俺達が借りてる宿もここから見えるしな。異変があれば気付くだろ」
時計塔から見下ろす街並み。深夜0時を過ぎたこともあり、人工的な明かりはほとんど消えてしまっている。それでも何故か、彼女を寝かしている宿からは光が漏れていた。
……アイツ、まさか起きて俺達が帰ってくるの待ってんのか。
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