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「リーゼ? どうかしたか?」
「え? い、いや、人は見かけによらないなぁと思っただけ」
「おまっ、照れるからよせよぉー! もぉー! なんなの急にー? なんなのもぉー!」
「どうして嬉しそうなのよ……」
意味がわからない。というか、そもそも褒めてない。
体をくねらせるヴァンを見て、リーゼロッテは深いため息をついた。
「はぁ……まぁいいわ。あなたは命の恩人だし、数々の無礼は水に流すことにします。仲直りしましょう?」
リーゼロッテは柔らかく微笑んだ。美しく、慈愛に満ちた優しい笑顔である。顔や体型には幼さが残るものの、リーゼロッテはまるで天使のような少女だった。
「ありがとう。じゃあ仲直りの握手しようぜ。はい、お手」
「わんわん――って何させんのよ!」
リーゼロッテは差し出された手を叩き落とした。ヴァンのくだらないボケに付き合うあたり、彼女はかなりのお人好しなのかもしれない。
「ぶははっ! 冗談だよ、リーゼ。これからよろしくな」
ヴァンは仕切り直して、今度こそ握手を求めた。
彼があまりにも普通の行動を取ってきたので、リーゼロッテは警戒する。
「な、何よ。急にまともになっちゃって。何か企んでるの?」
「いやべつに。普通に友達になりたいなぁーって思っただけ」
ヴァンはしれっとそう言い放つ。彼のぼけっとした表情からは、何も画策していないことは見て取れる。
――友達になりたいと思っただけ。
リーゼロッテはその言葉を受けて、彼を疑った自分を恥じた。
たしかにヴァンは、女の子のパンツを凝視するような変態だ。それは揺るがないけれど、だからといって悪人ではない。ヴァンはエロくて、ちょっぴりへそ曲がりの魔術師なだけ。
第一印象だけで、その人のすべてを決めるのはよくない……リーゼロッテは考えを改めた。
(この人……根は善人よね。私のことも助けてくれたし)
と、そのとき、彼女の脳裏にある疑問が浮かぶ。
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